人の不幸は、お金になる社会

先週、あるトラブルの解決を依頼するため、弁護士に会ってきました。念のため申し添えておくと、社内の問題ではありません。

そして昨日は、情報セキュリティに関するセミナーを受講しました。経済産業省が進める「SCS評価制度」に、企業としてどのように向き合うべきかを考えるためです。近年の企業に対するサイバー攻撃を見ていると、情報セキュリティは、もはや「対岸の火事」とはいえません。
特に注意しなければならないのは、大企業そのものだけでなく、その子会社や取引先など、サプライチェーンの一部を担う企業が攻撃の入り口として狙われる可能性があることです。私たちのような中小企業も、決して無関係ではありません。

ところが、私の身近な人たちを見ていると、
「自分の周りに悪い人はいない」
「自分の会社が狙われるはずはない」
と、どこかで信じ切っているように感じることがあります。

もちろん、人を信じることは大切です。しかし、善意を前提にすることと、危険に備えないことは別の問題です。悪意のある相手が、いつ、どこから、どのような方法で近づいてくるのかは分かりません。

そんなことを考えているうちに、ふと頭に浮かんだのが、
「人の不幸は、お金になる社会」
という言葉でした。

弁護士は、トラブルを抱えた人の問題を解決することで対価を得ます。

医師は、病気やけがに苦しむ人を治療することで対価を得ます。

美容医療の世界では、容姿に対する悩みや劣等感に解決策を提示することで、ビジネスが成り立っています。ただし、その過程で必要以上に不安を刺激していないかは、慎重に見なければならないと思います。

情報セキュリティ関連の企業も、情報漏洩やサイバー攻撃の被害事例を社会に伝え、企業の危機意識を高めることで、自社の製品やサービスの必要性を訴えています。

保険会社も同じです。
「病気になったらどうするのか」
「がんになったら家族の生活はどうなるのか」
「将来、十分なお金がなかったら大変ではないか」
そのような不安に備える仕組みを提供し、対価を得ています。

ちなみに、何度も病気を経験した私自身は、日本には公的医療保険や高額療養費制度があるため、民間の医療保険が本当に必要なのかは、一人ひとりの生活状況や資産、家族構成によって冷静に考えるべきだと思っています。

もちろん、民間保険が必要な人もいます。ここでは医療保険そのものを否定したいわけではありません。

改めて考えてみると、私たちの社会には、人が抱える病気、トラブル、劣等感、恐怖、将来への不安を解決することで成り立っている仕事が数多くあります。

これを単純に、
「人の不幸を飯の種にしている」
と決めつけてしまうのは、少し乱暴かもしれません。
実際に、弁護士や医師、セキュリティ企業、保険会社の存在によって、多くの人や企業が救われていることも事実です。問題は、不幸を解決することによって対価を得ることではありません。

私が気になるのは、必要な危険を正しく伝えることと、必要以上に不安をあおることの境界です。

本当に困っている人を助けるための仕事なのか。
それとも、人の不安を大きくして商品やサービスを売る仕事になっていないか。
この違いは、とても大きいと思います。

考えてみれば、これらの仕事にとって、

  • 悪意のある人
  • 病気やけが
  • 容姿に関する悩み
  • 将来への不安
  • 情報漏洩やサイバー攻撃

は、解決すべき社会課題であると同時に、仕事が生まれる理由でもあります。

なくなってほしいと願いながら、それが完全になくなれば仕事も減ってしまう――。そこには、少し複雑な構造があります。

しかも、こうした分野で働く人の中には、高い専門性と責任を求められるため、高い収入を得る人もいます。そして、弁護士や医師は「先生」と呼ばれます。

「先生」と呼ばれる職業には、政治家もいます。
では、政治家は、国民が抱えるどのような苦しみや不安を解決するために存在しているのでしょうか。

生活への不安、老後への不安、仕事を失う不安、子育てへの不安、安全保障への不安――。政治もまた、国民が抱えるさまざまな問題を解決することによって、その存在意義を認められる仕事なのかもしれません。

しかし、ここにも同じ問いが残ります。
不安を解決しようとしているのか。
それとも、不安を利用して自らの必要性を訴えているのか。

これは政治家だけの問題ではありません。企業経営者にも、専門家にも、そして情報を発信する私たち自身にも当てはまることです。

危険を伝えることは必要です。しかし、恐怖を過度にあおってはいけません。

不安を商売にするのではなく、正しい情報と現実的な対策を示し、人や企業が安心して前に進めるようにする。

それこそが、専門家や企業、そして政治に求められる本来の役割なのではないでしょうか。

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